少年 | 吹き溜まりの雀たち

少年

「それじゃ、澤山さん、またね」


そういって、まるでジャニーズ事務所の
若手のように端正な顔立ちをした青年、
寺田君は、店を出て行った。


傍らに、店のメンバーの女の子、
梶原さんを侍らせて。


寺田君と梶原さんは、
オレが店に入った時から付き合っていた。


といってもまぁ、
そこら辺の事情は多少複雑だ。


複雑といっても、
その理由は二言くらいですんでしまう。


寺田君は、まだ17歳、少年といってもいい年齢なのだ。
そして、家出中。理由はオレは知らない。


ともかくそんなワケで、
寺田君は高校にもう半年近くいっていないとかで、
退学処分になってるのかどうかすらわかんない、
と言っていた。


で、じゃぁ衣食住はどうしているのか、
という話になるが、
其処のトコをまかなっているのが梶原さん、
というわけ。


梶原さんは、当然ウチの店の稼ぎだけでは、
寺田君を養っていくことなどできないので、
キャバクラでも働いていた。


寺田君は一日中する事が何も無いので、
梶原さんにくっついて店に来て、
梶原さんの仕事が終わると一緒に帰る。



17歳にして立派なヒモ。
けっこうディープだね、ジャパン。




あ、17歳が雀荘に入店していいのかって?
まぁ、そこら辺を言い出すとキリが無いのよ、
この世界。



こんな話を持ち出すと、
寺田君は不幸な生い立ちの美少年、
なんて想像をされそうだが、
彼の目は驚くほど澄んでいた。


まぁ、タッキー似のサワヤカな顔が、
そう見せているだけかもしれないが。


彼は、17歳にして、
「どうすれば今自分が生きていけるか」
「どうすれば今自分が衣食足るか」
というのを知っていた。


元々、梶原さんへの恋愛感情なんて、
ほとんど無かったらしい。


梶原さんの方もそれを承知であることを、
酔った彼女がこぼしたのを覚えている。


二人の間に、どんな感情が流れていたのか、
オレなんかには想像できない。
いや、しちゃいけないんだろう。きっと。





オレが店を辞めた後、
二人が別れた、という話を聞いた。


その少し後、
ホストクラブの広告に、
寺田君の顔を見つけたのをよく覚えている。



知力に秀でた者が、
勉学に傾倒し学者になれば、
周りから賞賛される。


体力に秀でた者が、
さらに体を鍛え、スポーツ選手になれば、
憧れの的になる。


…イケメン寺田君の生き方は、
きっと、誰からも賞賛されないんだろう。


親も学校も蹴っ飛ばし、
17歳であわやホームレスのヒモ生活。


顔を武器に、
世の裏道を渡り歩いていく。



それだって、
生きてる事に変わりはねぇや、なぁ?